心肺蘇生法から人工呼吸がなくなるってほんと?撤廃の理由2つを解説

心肺蘇生法から人工呼吸がなくなるってほんと?撤廃の理由2つを解説

全身に血液を運ぶポンプの役割を持つ心臓。

これが止まってしまうと、さぁ大変。

(引用:Wikipedia カーラーの救命曲線)

カーラーの救命曲線によると、心臓が止まってから3分後には救命率が半減5分後には絶望的な状況に陥ってしまうことがわかります。

救急車の到着平均時間は全国平均で8.5分とのことですので、心停止側としてはほぼほぼ余命宣告を告げられた形となります。

(引用:平成29年版 救急・救助の状況)

なので、初動がとても大事です。

某土俵女性問題のように救命措置以外に気を取られている暇なんてありません。

心停止に陥った人がそのままお休みなさいとなるか、また回復後の後遺症がどれだけ残るかはその場に居合わせた人の行動によって決まるのです。

病院に到着する前、ひいては救急車が到着した瞬間にはカードは出揃っているのです。

救命措置と言えば、心肺蘇生法。

その心肺蘇生法ですが、近年人工呼吸の要/不要について議論がされているのをご存知でしょうか?

ということで、今回は人工呼吸の要/不要について書いていきたいと思います。

従来の心肺蘇生法

現在、一般市民用に開かれている心肺蘇生法の講習は、国際蘇生連絡委員会がまとめたレポートを下地にして作成した救急蘇生法の指針を根拠としています。

この指針によると、心肺蘇生法は

STEP1.呼吸の有無を確認

普段通りの呼吸がある場合は、様子をみながら救助隊を待つ

呼吸がない場合、もしくはわからない場合は胸骨圧迫を開始

(胸骨圧迫が人体に与えるダメージは小さいので、不明の場合でも胸骨圧迫が推奨されます)

STEP2.胸骨圧迫

胸の真ん中を目安にして胸骨圧迫を開始する。

1分間に100-120回を目安に、胸が4-5cm沈むくらいに強く、早く圧迫を繰り返します。

STEP3.人工呼吸

頭部を後ろに、顎を持ち上げて人工呼吸を開始します。

鼻をつまんで息が漏れないようにするのもお忘れなく。

人工呼吸は2回行いますが、1回の吹き込みにかける時間は1秒です。2-3秒かけて肺が正常になるのを見てから再度行います。

上記の手順で行うように記載されています。

また、胸骨圧迫と人工呼吸は30:2の割合で行うのがもっともよいとされています。

きっと、会社や教習所で習ったこともあるこの心肺蘇生法。

ですが、この心肺蘇生法から人工呼吸がなくなりつつあります。

(引用:人工呼吸、省略OK? 変わる心肺蘇生法 京都市消防局が救命講習)

なぜでしょうか?

理由を書いていきます。

人工呼吸撤廃論根拠1:蘇生率

人工呼吸撤廃論を支持する理由の1つは蘇生率です。

ここに「心臓マッサージのみ」と「心臓マッサージ+人工呼吸の併用」で心肺蘇生法を実施した患者さんの予後についてまとめたデータがあります。

(引用:日本における院外心停止の実態と新たな蘇生法)

心肺蘇生法を受けた患者と受けてない患者間では明らかに受けた方の蘇生率と予後が高いことがわかります(当然と言えば当然ですが)

しかし、問題なのは「心臓マッサージのみ」と「心臓マッサージ+人工呼吸」との蘇生率の差です。

従来の指針では「胸骨圧迫:人工呼吸=30:2の時が最も蘇生率が高い」とされていたのですが、このグラフでは全く逆の結果が示されていることがわかります。

なんと「心臓マッサージのみ」と「心臓マッサージ+人工呼吸の併用」での蘇生率はそれぞれ6.2%4.2%という結果になり、心臓マッサージのみの心肺蘇生法のほうが人工呼吸を併用するより好ましい処置であることが示唆されてきたのです。

(統計学的有意差はここでは置いておきましょう)

ここから

心臓マッサージのみ≧心臓マッサージ+人工呼吸

という、とても単純な図式が成り立ちます。

併用してもしなくても変わらないという結果であれば人口呼吸撤廃論がここまで叫ばれることもなかったのですが、ここまで明らかな逆転構造を出されたらひとたまりもありません。

人命最優先という考えの下、人工呼吸論が叫ばれることになったのです。

人工呼吸撤廃論根拠2:物理的/心理的障害

実は人工呼吸というのは存外難しいです。ベテランならいざ知らず、目の前で人が倒れて気が動転している初心者にできる技ではありません。

人工呼吸の手順は

1.後頭部を下げて、顎を上げて気道を確保する

2.鼻をつまんで、息が逃げないようにする

3.口と口を隙間なく密着させて、1秒間で息を吹き込みます。この時、吹き込む量はふつう呼吸の2倍程度がよいとされています。

4.2-3秒かけて肺が沈むのを見てから再度行います。

このサイクルを2回行う訳ですが

気道を確保できなければ息が入り込まずアウト、鼻をつまんでなかったら息が漏れてアウト、吹き込み量を誤ったら肺が破裂してアウト、逆に慎重になりすぎて過少になるとただ時間を浪費するだけなのでアウト

など意外とハードルが高いのです。

そして、こういった物理的なハードル以外にも心理的なハードルがある人間ももちろんいます。

要は見ず知らずの人とキス(人工呼吸)なんてしたくないということです。

本人や患者の親族、緊急性から考えると何ともバカらしいのですが、受ける側が人間ならやる側も人間。やはり心理的な障害があるのは否めません。

私だって見ず知らずのおっさんに人工呼吸する羽目になったら、衛生的にも心理的にも抵抗感を示します。うん。

これら物理的/心理的な事情から人工呼吸を躊躇い、また実施できたとしても効果的な措置となりえなことが多いです。

そんなまだるっこしくて無駄な時間を割くくらいなら心臓マッサージをずっと続けた方が有意義だとするのが人工呼吸撤廃論2の根拠です。

これら2つの理由によって、心肺蘇生法から人工呼吸がなくなりつつあるのです。

それでも人工呼吸をやった方がいい場面

ただし、1つだけ例外があります。

それが、呼吸原性心停止の場合です。

なんか難しい言葉ですが、要は酸素不足による心停止と考えてくださればそれで結構です。

窒息、誤飲、溺水、喘息によって血中の酸素が不足して心停止に繋がるこのパターンだけは人工呼吸を行うようにしましょう。

でないと、心臓マッサージだけをしても意味がないです。

心臓マッサージの本質は「各組織に血液を循環させること」なのですが、これは血中にまだ酸素が残存している状況を想定しています。

血中に酸素が残存している場合は血液を循環させることで各組織に酸素が運搬されますが、呼吸原性心停止のように血中に酸素がない状態の血液を循環させても、血液が巡るだけで何の意味も為しません。

積荷のないトラックがいくら駆け回っても客の手元に商品が届かないのと同様に酸素のない血液をいくら循環させても組織に酸素は届きません。

こういったときに初めて人工呼吸が活きることになります。

正しい人工呼吸を行って血中に酸素を含ませた後に心臓マッサージを行うことで、初めて呼吸原性心停止に対抗することができるのです。

よって

窒息による心停止の場合は人工呼吸を忘れずに

行うようにしましょう。

これが人工呼吸を省略できない唯一の例外です。

ということで、今回は人工呼吸の撤廃について見ていきましたが、どうでしたでしょうか?

数年前に消防局で行っている心肺蘇生法の講習に足を運びましたが、その時はまだ併用が勧められていました。

いつから人工呼吸の廃止が推し進められるようになったのかは知りませんが、これで蘇生率が高くなってくれることを祈っています(日本は心停止からの蘇生率が低い国です)。

ではまた!

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